世界を俯瞰した平熱さを帯びながらも、音楽の魔法を宿すバンド ー e-sound speaker 

繊細さの中に強い芯を感じさせる美しいギター・ロック。とにかくメロディが良い。ゆっくりと聴き手の琴線を刺激し、確実に感情を揺れ動かす。ヴォーカル&ギター大迫章弘の歌は、基本的に人間は無力であるという前提のもと、確かなものだけを選びとるかのごとく、優しく強く響く。リズム隊は着実にビートを刻み、音楽を鳴らすのをやめない。闇があって光があり、悲しみがあって喜びがある。冷めているわけでもなく、熱くもない。あくまでも世界を俯瞰した平熱さを帯びているのだが、そこに音楽の魔法をふりかけて、少しだけロマンチックにしてみせる。それがやけにリアルだ。
 初期の楽曲では、自身の内面との対話を掘り下げて言葉にしていた大迫だが、徐々に他者が入り込んだ、心と心の対話を描くように。そもそものメロディメーカーとしての才能は、その変化に自然と進化を見せている。メジャー・デビュー・シングルとなる“Stand by Me”は、大きな優しさと郷愁が宿った、スケール感のある楽曲。目の前に広がる景色がすべてであり、なんだってできると信じていた12歳のときの気持ちから、現在の自分に思いは繋がっていく。《ありがとう さようなら 僕は今ここで歌を歌っているよ 世界は変えられないとしても 時に逆らえないとしても 信じて歌うよ Stand by Me》。抗えない現実から目を背けることなく、本質だけを歌うこの“Stand by Me”は、言い知れぬ孤独感をまとった内省的なギター・ロックから、ゆっくりと大きな光の中に身を置き始めたe-sound speakerの、新たな始まりだ。

『ROCKIN’ON JAPAN』編集部 小松香里